2024年11月5日(火)

明けぬうちは曇っていたが、やがて青空に。雲が多く、やがて曇り空になるらしい。

入院中

  まだ刈らぬ田を持つものの如何せむ黄金の穂の重く垂れをり

  点滴を終りて内服カプセルにこれが大きい喉に閊へて

  一室に六十代二名、七十代二名、この七十代がとんでもないのだ

『論語』子路三 子路曰く、「衛の君、子を持ちて政を為さば、子将に奚をか先にせん。」孔子曰く、「必ずや名を正さんか。」子路曰く、「是れ有るかな、子の迂なるや。奚ぞ其れ正さん。」孔子曰く、「野なるかな、由や。君子は其の知らざる所に於いては、

蓋闕如たり。名正しからざれば則ち言順はず。言順はざれば則ち事成らず。事成らざれば則ち礼楽興らず。礼楽興らざれば則ち刑罰中らず。刑罰中らざれば則ち民手足を措く所なし。故に君子はこれに名づくれば必ず言ふべきなり。これを言へば必ず行ふべきなり。君子、其の言に於いて、苟もする所なきのみ。」

  弟子なれど子路は野なるや仕へしは君子なればや名を正すのみ

『春秋の花』 西東三鬼
・剃毛の音も命もかそけし秋 『西東三鬼句集』(1965)の『「変身」以後』所収
一九六二年二月、「中旬、ガン転移急速のため余命一ヶ月と家人に医師が告げる。」
同年四月一日逝去。行年六十二。
・春を病み松の根っ子も見あきたり」絶筆。
 *
・白馬を少女瀆れて下りにけむ 剃毛されしに手術まにあはず三鬼死す

2024年11月4日(月)

今日もまた朝から晴れ。

入院時の歌の続き

  高熱もウイルスもからだを去りたまふ少し身軽に足踏みにけり

  窓の外に小さき虫の動きありなんとかしやうにも手がとどかざる

  雨降ればけふ一日の暗くしてさねさしさがみの野も霧のなか

『論語』子路二 仲弓、季氏の宰と為りて、政を問ふ。孔子曰く、「有司を先にし、小過を赦し、賢才を挙げよ。」仲弓が問ふ、「焉んぞ賢才を知りてこれを挙げん。」孔子曰く、「爾の知らざる所、人其れ諸れを舎てんや。」

  焉んぞ賢才をりてこれをひきたてるこれが政治の要諦ならむ

『春秋の花』 里見弴
・一番繁華な表通りに、いつも耿々と月が冴え亘り、天水桶の影が濃く地に滲んで、犬の遠吠え、按摩の笛、――そんな情景のなかにばかり、あの、しみじみと悲しい気持が思ひ出された。
短編『かね』(1937)の一節。1880年代(明治中葉)の典型的な地方小都会
情景。
     ↓
・ひんがしの白みそむれば物かげに照りてわびしきみじか夜の月 『さびしき樹木』
・月照るや朝霧消ゆる身のまはり 失名氏
『かね』はよい。一読を強くすすめる。

  耿々と月の冴えたり野のなべてかげ濃き秋の夜にやあらむ

2024年11月3日(日)

朝から晴れている。ひさしぶりだ。

妻が「小川晴陽と飛鳥園一〇〇年の旅」を観てくる。

  香薬師像、新薬師寺より失はれいくとせ経たるかその像見たし

  坐に座る大日如来の像の写真妻の視線を釘付けにせむ

  いく枚かの絵ハガキみやげに帰り来し妻よやさしき目をして微笑む

『論語』巻第七 子路第一三 一 子路、政を問ふ。孔子曰はく、「これに先んじ、これを労す。益を請ふ。」さらに問ふと、孔子曰く、「倦むこと無かれ。」

  政を問へば孔子の答へ率先し労ふことと倦むこと無かれ

『春秋の花』 与謝野晶子
・花草の満地に白とむらさきの陣立ててこし秋の風かな 『舞姫』1906
    ↓
・吾亦紅すすきかるかや秋くさのさびしききはみ君におくらむ 牧水『別離』
・道々の秋野に花はゆらぎたれど尚眼をとじぢて見たきものあり 憲吉『松の芽』
・うつり行く女のこころしづやかにながめて秋をひとりあるかな 夕暮『収穫』
・秋さびしもののともしさひと本の野稗の垂穂瓶にさしたり 千樫『青牛集』
概して秋の秀歌は、生命の物悲しい寂寥感を帯びる。しかるに掲出歌や
・水引の赤三尺の花ひきてやらじと云じし朝露の道 晶子『舞姫』

精力の溌溂たる充実感に輝く。
・夜の二時を昼の心地にゆききする家のうちかな子の病ゆゑ

  秋草の寂びてわびしき道をゆくひとりにてあるか老いの友なし

2024年11月2日(土)

雨だ。暗い空。南方のロジテック群が雨で霞んでいる。

  午前四時に覚めて起きだしトイレへ向う老い耄れならむ

  青き蜜柑、剝けばすっぱい香のあふれ運動会のかけっこ思ふ

  わがメガネに寄り来る小さな虫がゐるあやまりて潰すその黒き虫

『論語』顔淵二四 曾子曰く、「君子は文を以て友を会し、友を以て仁を輔く。」

  君子なれば文事によって友を得てその友をもち仁を輔くる

『春秋の花』 渡辺水巴
・別るるやいづこに住むも月の人 『続水巴句帳』(1929)
     ↓
・岩鼻やここにもひとり月の客 向井去来『去来抄』
     ↓
・硝子破れ月明がこわれて見ゆる 阿部完市『無帽』1958
・草木寝て月と遊べる冷川 鷲谷七菜子『花寂び』1977
 *
・手を打たばくづれん花や夜の門

  岩鼻の上には月の客がゐてひとつのものを見つめつつあり

2024年11月1日(金)

今日から11月だ。一年が早い。空は晴れているが、やがて雲が多くなり、雨が降るらしい。

  手の甲にも老班があるいつのまにか老いの極まるわれにあらずや

  陰毛にも白きと黒木が混じりをりああわが軀老いたるかなや

  夜に起きる回数ふえて年寄りと気づくわれには妻もおなじく

『論語』顔淵二三 子貢、友を問ふ。孔子曰く、「忠告して善を以てこれを道びく。不可なれば則ち止む。自ら辱めらるること無かれ。」

  本当の友なればいつか気づく。さにあらねば則ち縁をきるべし

『春秋の花』 久坂玄瑞
・竜田川、むりに渡れば、紅葉が散るし、渡らにゃ聞かれぬ、鹿のこゑ
    ↓
・むかし思へばアメリカの/独立したのもむしろ旗/ここらで血の雨ふらせずば/自由の土台が固まらぬ」 秩父事件にかかわる民謡。
    ↓
・やや遠きものに思ひし/テロリストの悲しき心も――近づく日のあり。 啄木

「支配権力側の理不尽が、しばしばそのような境地に、被支配者側の自覚的な単数ないし複数の精神を、追い詰めるのである。(深く肯う。)

  たひらかなる世を望みたるわれなれど時にテロルを思ふことあり