2024年12月12日(木)

今日も快晴。しかし10℃くらいまでしか気温は上がらないらしい。

  私が泥であることに驚けりまったくの泥跳ねとばしつつ

  泥跳ねをたのしむやうにかけりつつ背に泥かかるこれもたのしき

  泥を持って泥を棄てたりまた泥にかえって泥をこねはじむる

『論語』憲問三 孔子曰く「士にして居を懐ふは、以て士と為すに足らず。」

  士にして安住の場を慕ひをるそれでは士となすには足らず

『春秋の花』 正宗白鳥
・私は『神曲』に親しんでゐる。しかし、六百余年前の伊太利の小都会で短い生涯を送った一少女に永遠の救ひを求めるたまではない。

『ダンテについて』(1927)の断章。この少女とはベアトリチェを指す。私は白鳥の物の見方・考え方に必ずしも全的には賛成しないものの、大いに敬意を表する。「ケリーの英訳本には『ダンテの幻想』と題目がつけられてゐるが、この幻想が写実の妙を極めてゐることは、地獄変の幾曲かを熟読すれば、誰にでもよくわかるのだ。」という一くだりなどは、実に文学上の金言である。
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知己を後世に持つとは、思慮の深い言葉のやうであるが、今日の人間よりも後代の人間の方が一層懸命であることが如何にして照明されるのであらう? 『雑感集』

  ダンテの『神曲』なべて幻想なりその神髄を白鳥は見つ

2024年12月11日(水)

今日も晴れている。しかし寒い。

ハン・ガンさんの『少年が来る』、井手俊作訳を読んだ。光州事件からおよそ三十五年。事件の死者が描かれ、その周辺の生者たち。そして事件の後生き残ったものたち。ハン・ガンさんは、こうした書物を刊行して今年のノーベル文学賞だ。

  山茶花の花咲くところ赤き花高きに咲けり多く花咲く

  山茶花の白き花咲く道沿いをゆけばさびしき六波羅蜜寺

  古狸、山茶花の花咲くところとびだしてくるけものの道を

『論語』憲問二 克・伐・怨・欲、行われざる、以て仁と為すべし。孔子曰く「以て難しと為すべし。仁は則ち吾れ知らざるなり。」

  むつかしきことなり仁はわからざる克・伐・怨・欲行われても

『春秋の花』 五島美代子
・すきとほる魚身あらはに水さむしおのれを恃むことのはかなさ

『新風十人』(1940)所収。
・おとしあな設けられなばそを踏みておちいりてのちまた行かむわれは
・わが船一つ空と海との中にありて地球の自転に逆らへるおもふ
・女身の道さからひかねてをとめづく娘はまみうるみ時にすなほなり

  透きとほる女のからだ水を浴びおのれを恃むこのはかなさよ

2024年12月10日(火)

まあ晴れている。今日もMRIを取りに病院に出かける。

  幽霊のごとく木の葉の垂れさがるしかもまだらに赤くもみぢし

  闇の中にこの木に遇えば怖ろしきまるで幽霊葉を垂れてゐる

  柳の葉枝垂れてどこかさびしげに幽界にいるごとくにありき

『論語』憲問第十四 一 憲(孔子の門人。あざなは子思)、恥を問ふ。孔子曰く「邦に道あれば穀す。邦に道なきに穀するは、恥なり。」

  憲が問ふ恥とはいかん孔子曰く邦に道なきに穀するは恥

『春秋の花』 林芙美子
・雪降れば 亦心温く/机上の薔薇枯るるといへど/吾が孤独の星座/つねに風沙に開く

『林芙美子全詩集』(1969)所収『一章』
・髻にあかき花挿し紅をつけ天に問ひたき侘びの日もあり

『放浪記』『三等旅行記』
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・秋はいいな/朝も夜も/私の命がレールのようにのびて行きます。
詩『秋のこころ』の終節。

  雪降ればこころも温し室の内薔薇も枯れたり孤独の星座

2024年12月8日(日)

朝から快晴。85年目の開戦の日である。無謀な戦争であったことを考え直さねばいけないのだろう。

  庭木々の石榴のもみぢ西風に吹かれて散り落つきわめて自由に

  石榴もみぢ黄色く小さき葉を拾ふその健康さうな葉の色なりき

  ざくろの葉落ちてぞ風にかたよりて暈なすところ色うつくしき

『論語』子路三〇 孔子曰く「教へざる民を以て戦ふ、是れこれを棄つと謂ふ。」

教育をしていない民を戦争させる。それこそ民を棄てるというものだ。ということは戦争はするんだな。そういう時代であるが、もう少し謙虚であってほしいものだ。

  教ふれば戦はせてもよきものか八十五度目の開戦記念日

『春秋の花』 飯田蛇笏
・積雪や埋葬をはる日の光り 『山盧集』(1931)所収。「簡勁蒼古」を称える風格が如実に顕現している。
しかも私は、東洋的なそれよりも、むしろ西洋的な情景を表象する。
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・秋冷のまなじりにあるみだれ髪

  雪原を喪服の老若男女の一団が過ぎてしづかに弔いの地へ

2024年12月7日(土)

快晴。朝は寒い。

  暗闇の机上に茶碗をひっくりかへすこぼれたる茶の領域ひろがる

  卓の上の茶を拭かんとし雑巾にティシュペーパーあわてるあわてる

  雑巾に茶をふき取りて雑巾のすこしく太るびしょぬれなれど

『論語』子路二九 孔子曰く「善人、民を教うること七年、亦以て戎に即かしむべし。」 後段の「戦争にいかせることができる」、つまり教化によってすすんでいのちをささげるようになる。これはどうなんだろう。当時、戦国の世であったとしても、孔子には言ってほしくない文言である。

  七年を教ふればすすんで戎に就きいのちをささげる兵隊になる

『春秋の花』 木原実
・『パンの略取』ひそかに持っていただけの思想犯の律儀さ

『象』21号(1995)所載「律儀な思想犯」17首のうち。……「思想犯は、いつでもおよそしかく「律儀」である。
・こなごなに砕けた富士 ひび割れた月がかたすみからのぞいている

  こなごなに富士を砕いてたのしきか衆議院五期つとめしものが

2024年12月6日(金)

朝は暗くて寒いが、日中は晴れて暖かい。

  西風に枯葉朽ち葉の吹かれをりカサリコソリト音頭を踊る

  一方に落葉吹かれて溜まるところ蹴散らして遊ぶ老いもゐにけり

  じゃり径の右手の小さな山茶花に赤、白ありて並ぶ木ありぬ

『論語』子路二八 子路問ひて曰く「如何なるをか斯れこれを士と謂ふべき。」孔子曰く「切切偲偲怡怡如たる、士と謂ふべし。朋友には切切偲偲、兄弟には怡怡如たり。」

  士人とは如何なるものか朋友に切切偲偲、兄弟には怡怡如たり

『春秋の花』 斎藤茂吉
・高ひかる日の母を恋ひ地の廻り廻り極り天新たなり 『赤光』(1913)所収。一九〇八年作「新年の歌」の一首。なかなか雄大な歌がら…
・わが船一つ空と海との中にありて地球の自転に逆らへるおもふ 五島茂
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・ほがらほがらのぼりし月の下びにはさ霧のうごく夜の最上川

  太陽をもなかに地球は回りをり地球は回る実感しがたし