朝から快晴。アイスクリームもような雲がうかぶ。
鉄塔の建ちたるあたりに湯気ゆらめく源泉ここに涌き出すらしき
草藪にもかすかに湯気のけむりありここからも涌きだす湯がありにけり
朝の湯は誰一人なくわれのみに湯に浸りしたたる湯の輪みてをり
あしがりの川の檄湍の音を聞き湯に沈みをりこよひ心地よき
湯船には仲間とおもふ人らゐてたのしきものよあしがりの湯は
田山花袋『東京の三十年』を読み終えた。花袋の書いた三十年の間にも大きな変化があったようだが、現在はもっと大きな変化を蒙っている。東京だけではない。世界中のどこもが不自然な変化の対象だ。この書物みhあ国木田独歩、柳田国男などとの交友も記されて、実におもしろい。「過ぎ去った昔よ、なつかし昔よ。」
『東京の三十年』には、時折花袋の自作の短歌が記されている。『論語』『春秋の花』を休む代りに、その歌をあげておこう。
・早稲田町ここも都の中なれど雪のふる夜は狐しばなく
唄の師匠は、松浦辰雄。香川景恒門下。柳田国男、宮崎湖処子も同門。
松浦辰雄の夫人の一首。
・ねさめてもねさめてもなほ長月のあり明の月ぞまどに残れる
再び花袋の歌。
・いたづらに梅のみ白き夕ぐれのこのさびしさをいかにしてまし
・家にあらば月にわぎもがうすけはい草花見にと添ひて行かましを
独歩の死
・梅雨ばれのわらやの軒の日に干せる繭しろき日を君が喪にゐし
・あし曳きの山ふところにねたれどもなほ風寒し落葉乱れて
次の二首。いづれも島崎藤村を思って。
・山口のいで湯の里の春雨の静かなる夜を別れ行くかな
・この春は田舎の里にひとりゐて波の上なる君をしのばん
歌を含めて『東京の三十年』、名著であろう。