9月1日(金)
西の空にスーパームーン残りをり満月大きくかがやく朝に
まみどりの樹のけさことにかがやきてスーパームーンことほぐごとし
朝烏けたたましくも鳴きはじめ二羽、三羽追ふこゑに鳴きつつ
9月2日(土)
前田利家、股肱の臣の村上長瀬。利家亡き後もいのちがけなり
前田利家 黄金の羽織りの傾奇者。いのちがけなるもののふの伝
ものふの一代記読みをり。痛快なり。いのちがけなるふるまひ楽し
9月3日(日)
紙垂四枚垂らして神棚あでやかなり祈りささげむ地の霊たちに
石上ふる鈴振りて、いにしよをひらくがごとき鶏の鳴き声
地の霊など九月一日の碑に呼びて百年の後祈りささげむ
9月4日(月)
いくつかの歌集原稿用意して病室に持ちこむ完成稿を目指し
プリンターに打ち出す歌集の数枚を読みこむたびに旅をし思ふ
旅へ行く歌多くして第六歌集読み返すたびその旅おもふ
9月5日(火)
かろやかに小雲ひむがしへ流れゆくこの軽やかさ秋のものなり
穂の垂れて刈りしほ近しこの秋もたけてゆくなり黄金の田に
この日ごろ黄金の田に穂の重く刈りしほ近く秋もたけゆく
9月6日(水)
東京の下町を焼く大空襲。長明の『方丈記』あれこれ気になる
古京荒れて新都はいまだ成らざるにひとは浮雲のごときとおもふ
古典とは異なるものの面妖さ『方丈記』読む。つぶさに読める
9月16日(土)
鷺五羽が鳴きつつ田圃の畔に降りる稲穂稔れるえびなの田へと
ひよどりは速度落して飛びゆけり黄金の田を睥睨しつつ
続々と畔に降下す。稔り深き海老名田圃をおのおのめぐり
9月17日(日)
朝がらすたけだけしくも鳴きさわぐ。稲田に垂り穂、風に鳴るとき
黄金の稔り田にしづかに降りてくる来臨を待つ南無阿弥陀仏
雲を吐きジェット機西へ飛びゆけり青空に少なき雲を避けつつ
9月18日(月)
暁烏けさも鳴きつつ移りゆくねぐらより出で田のうへを飛ぶ
あけがらすけさも早くに鳴きだしていづくゆくらむ町めぐりをり
メキシコのアステカ神を写しゆくいつしか魔法にかかりしごとく
9月19日(火)
いかづちのときに閃く。雷神は激しく雨風を地上に降らす
赤ちゃうちんをかぞえつつバスに阿佐ヶ谷へゆくとき父のあたたかき香よ
窓からの巨大ロジテック群白き雨にかすむやうなり遠く見えつつ
9月20日(水)
うろこ雲。龍のかたちにつらなりて朝焼け色に染まり流るる
小鷺二羽、雌雄わかねど黄金の垂り穂の田んぼに降りてくるなり
あのビルのむかふに始祖鳥がはばたけば人間はいつか鬼に化したり
9月21日(木)
はげしく降る雨、風増して三川のそれぞれの川濁流をなす
雨、風のはげしくなれば川水の暈増えてただ濁流をなす
濁流に流るる木々の幹にある木川はがれてただの丸太か
9月22日(金)
朝がらすけさも早くに鳴きをればこの地の権利を主張しをらむ
退院して一週経てばけさの雨。雲重くしてさがみの平
車道ゆく自動車の音湿りたり今日も一日雨ふりやまず
9月23日(土)
大山に亡き父の名を読みあぐる儀式ありただ動かずにゐる
大山の豆腐に醤油をかけて食す冷やつこ親しやはらかきもの
飴をもらひ大山を去るわれわれの立場はいづれ議員きてゐる
9月24日(日)
この国をうるほす稲穂に稔りあり八百万の神降りてくるかも
けふの風やさしく吹けばさねさしの国にも秋がくる楽しき秋が
秋の風。神坐す国に稲穂垂りこがねの稔りをやさしくゆらす
9月25日(月)
秋の陽のひかりまぶしく部屋に入る何かかがやき反射をかへす
秋の陽の日差し遠くにとどきたりあの世とこの世の境を分けて
しづかなるこの世に少し風いづる稲穂は波のかたちにうつろふ
9月26日(火)
高きところに薄雲の流れあるらしく秋の窓辺にしばしたたずむ
朝焼けの空につらなる雲の色うすピンク色に上辺焼けて
動かざる雲の連なり赤きもの黒きものあり明けてゆくなり
9月27日(水)
午前五時を過ぐればからす鳴きはじめいづちゆくらむ舞ひはじめたり
終電の音が聴こゑて鉄橋を渡りゆく小田急線各駅停車
車道を通る自動車音の乾きたりまだ雨は来ずさがみの平は
9月28日(木)
秋の空しづかに明けゆく西の国に遠く焼けたる茜雲ゆく
新米の力あるいのち。炊きはじめ米粒立てば美味しうまし
山側が茫とかすめるけふの空。この霞みこそ秋のものなり
9月29日(金)
鶺鴒のからみ合ひつつ飛びゆけりパティオは熱き密林のごとし
伊根の町にもどりし娘のものがたり『満天の星』かくもうれしき
伊根をロケ地に医師と看護師のものがたり上篇下篇ともにたのしき
9月30日(土)
JR相模線上り一番電車がゆく茅ヶ崎まで軽く車輛鳴らして
JR相模線一番電車に空席ありけさも出てゆく五時過ぎてまた
五時過ぎて暗闇に鳴くあけがらすけふも騒ぎてただかしましき
からすのことば分かればいまなにをいふなにを鳴くのか分かるといふか