雲が多いが、明るいのだ。そのうち晴れてくるらしい。そして暑くなる。
山の端は雲に隠ろふ山肌はわかみどり色日に映えて棚雲たなびく朝の風景
これほどにわかみどり色日に映えて山の一郭かがやきしなり
棚雲は山の中ほどを這ふやうに西の連山をずっと及べり
『論語』述而八 孔子が言う。「憤せずんば啓せず(わくわくしているのでなければ、指導しない)。「悱せずんば発せず(口をもぐもぐさせているのでなければ、はっきり教えない)。「一隅を挙げてこれに示し、三隅を以て反へらざれば、則ち復たせざるなり(一つの隅をとりあげて示すとあとの三つ隅で答えるというほどでないと、くり返すことをしない)。まあ、向学心の程ですか。
憤せずんば啓せず、悱せずんば発せず、一隅にして三隅反さざれば教ふるに能はず
『正徹物語』117 常光院・典厩・智蘊入道などと会合した機会に、「昔のすぐれた歌人の中で、誰のような歌が詠みたいか」という話題がもちあがり、面々が書いて出した。
常光院は曾祖父の頓阿の
・ふくる夜の川音ながら山城の美豆野の里にすめる月かげ 草庵集543
智薀は、
・あやしくぞかへさは月の曇りにし昔語りに夜や更けぬらむ 行遍 新古今1550
典厩は後鳥羽院下野の
・忘られぬ昔は遠くなりはてて今年も冬は時雨来にけり
と、それぞれ歌を書いて出した。そして最後の歌に「『これほどの歌なし。』この歌を詠ずるたびに落涙せられるよし語り侍りき。」
後鳥羽院は、承久の変の敗北に隠岐へながされ、その女房だった下野の嘆きということだろうか。
流されし後鳥羽院こそ思ひ出でて今年も冬は時雨来にけれ
『伊勢物語』六十七段 男が、親しきものたちと逍遥した。二月に和泉へ行った。生駒山が、はるか河内の方角に見える。曇っては晴れ、晴れては曇る。まるで人が立ったり座ったりするように、雲が上り下りする。朝に曇り、昼に晴れる。雪はましろに梢に降りかかる。その景色を見て、一人が詠んだ。
・きのふけふ雲の立ち舞ひかくろふは花の林を憂しとなりけり
きのも雲にかくろふ生駒山そこ越せば古きみやこ大和の国なり