曇っている。地は濡れているから直近まで雨が降っていたのだろう。染井吉野は五、六部咲きというところか。樹勢の若き木の花にヒヨドリが来て、蜜を吸っている様子が見えた。
やうやくに咲きはじめたる染井吉野けふは五、六部ヒヨドリが拠る
ヒヨドリのからだが載れば花着けし枝揺れてゐる若き桜木
染井吉野は津々浦々に咲きたれば少し遅れてみちのくにも咲く
『論語』雍也一九 孔子が言った。「人の生きているのはまっすぐだからだ。それをゆがめて生きているのは、ほんとうに幸いに免れているからだ。」
まっすぐに生きよゆがめて生くるはただの幸ひ
『正徹物語』98 「山の春」という題でこのように詠んだ。
・来る春に逢坂ながら白川の関の戸あくる山の雪かな 草根集2380
よくある逢坂をさしおいて白河の関で年が明けたなと思っている歌であるが、ここがちょっと目新しくもあるか。新しい春に逢坂にて逢ったのですが、これでは白河の関で明けたような、深い山の雪だった。
逢坂の雪の様子にみちのくの深き雪をぞ見るここちする
『伊勢物語』四十八段 男が、旅立つ人へのはなむけの宴を催そうと待っていた。けれど、その人は来なかった。男は詠んだ。
・今ぞ知る苦しきものと人待たむ里をば離れず訪ふべかりけり
この時にはじめて知りしただ人を待つことのみのつらさ苦さを