今日も朝から雨、次第に強く降る。
昨夜、徳田秋聲『あらくれ・新世帯』を読み終える。このところ秋聲が気になっていて、とりあえず岩波文庫のこの一冊を読んだ。「あらくれ」はお島が主人公、男をたびたび変えて東京と山国をいったりきたり、よく働く。だから女にして「あらくれ」なのか。また「新世帯」、「あらじょたい」と読むは、新吉とお作、そこにお国がからむ。いづれも、しばしばその自然描写に驚く。そして、そこが魅力でもある。一節だけ上げておく。「その晩は月はどこの森の端にも見えなかった。深く澄みわたった大気の底に、銀梨地のような星影がちらちらして、水藻のような蒼い濛靄が、一面に地上から這いのぼっていた。」随所に優れた描写があり、それぞれの人物にも生彩がある。
徳田秋聲の自然描写を愉しみて「あらくれ」「新世帯」読み終えたりき
朝の雨に寂しく鳴くはひよどりの一羽雌呼びいくたびも鳴く
雨に打たれ白き木蓮散りはじむ地に無惨なり葩落とす
『論語』雍也一一 孔子が言った。「賢なるかなや回。一箪の食、一瓢の飲、陋巷に在り。人は其の憂いに堪えず、回や其の楽しみを改めず。賢なるかなや回。」
顔回を褒めて孔子は二度もいふ「賢なるかなや回」「賢なるかなや回」
『正徹物語』90 「いづくにか今夜はさねん」といっても、少しは寝ているのである。
・いづくにかこよひはさねんいなみのの浅茅がうへも雪降りにけり 新後拾遺924
「さ」は接頭語。
いづくにか今宵はさねん紀の国をめぐりて夜の宿のあてなし
『伊勢物語』四十一段 昔、あねといもうとがいた。一人は身分が低く貧しい夫、もう一人は身分の高い夫をもっていた。身分の低い夫をもった女が、年の暮れ、夫の式服をみずから洗い張りをした。そのような仕事には慣れていない。式服の肩の部分を破いてしまった。女は泣くばかりである。男はあわれに思って、女の夫の官位にあう美しい緑色の式服をさがし、歌を添えておくった。
・紫の色こき時はめもはるに野なる草木ぞわかれざりける
この歌は、
・紫の一本ゆゑに武蔵野の草はみながらあはれとぞ見る
を踏まえて詠んだに違いない。