4月1日(土)
甲高きひよどりのこゑひびく庭さくら花びら散りかかりくる
鋭き声にひよどりの鳴く朝の空こたふるこゑのややに小さく
春の陽のひかりまばゆきさみどりの植物群のいのちの力
高い珈琲と旨いカレーを食べさせるカフェに過す二時間ほどを
4月2日(日)
くすのきはわづかのひかりに黄金の葉をかがやかせ鬱然たらむ
どうだんつつじの白き壺花ゆれはじめ春は一段ふかまるらしき
一木の白木蘭の花散れば椿の紅の花も後一つ
曇り空に椿の紅もうそさむく緑葉つやめくも樹は憮然たり
4月3日(月)
いにしへの初代天皇死にたまふ春のけふの日一三七歳 (『古事記』による)
葦原のしけしき小屋に二人寝したのしき日もありいにしへ大和に
靴紐をしつかり結び立ち上がるまほろば大和は老いには遠き
マンションの天辺にある電波塔にけさのひよどり高々と鳴く
いつのまにか電線に移り揺れながらここにも鵯するどき声す
4月4日(火)
満天星に白き花あまた咲き垂るる春の盛りを小声にうたふ
家垣の満天星の花鳴りあふ並木の花は長くつらなる
白花に覗きてうすき葉の色もこのみどりまた春の色なり
満天星の垣のむかうに雪柳の白きを見つけ春のたのしさ
4月5日(水)
演歌歌手さながらにこぶしまはし鳴くけさのひよどりこころふるはす
こぶしをまはすひよどりがゐるいつの日か能登半島のさびうたふべし
ほれぼれと散りくるさくらはなびらにまかれて立てばここは花街
けさもまた春のたのしさ風に吹かれはなびら散るを老い足に踏む
4月6日(木)
善光寺の緒賓頭盧さん盗まれて映像にさらすつるつるの膚
憶万の人に触られつるつるに賓頭盧尊者眉も眼もなく
散り残る染井吉野の木を仰ぐ老いひとりあり誰もより来ぬ
落下するさくらはなびらを足に踏むこのはなびらは誰にもわたさず
4月7日(金)
風吹けば樹々それぞれに不規則なる枝の動きあり長枝、短枝
けさもまたこぶしをまはし鳴き立つるひよどりをりし姿は見えず
河原口二丁目あたりに出没しひよどり高き声に鳴きをり
4月8日(土) 釈迦誕生の日であり、高浜虚子の忌日。
灌仏の日はひよどりもほがらかに中庭の木々をわたりゆくなり
おだやかなる朝のあかるくだんご虫つぎつぎにくるまだ小さな虫が
だんご虫一匹、だんごむし二ひきかぞへつつわがもとにくる虫を愛する
4月9日(日)
知事選挙、県会議員選挙投票に朝一番に妻と出掛ける
さみどりの木々、まみどりの樹々、赤き葉々四月初旬の日々は過ぎゆく
けさもまたノートを開き記録する体温、血中酸素濃度、血圧の類
用水にかかる小さな橋渡るわれにまつはる紋白蝶は
4月10日(月)
木の枝を咥へて弾むイカル二羽春のひかりのまばゆき場所に
巣作りの最中なのかも身に余る枝を咥へてイカル小走り
すずめごはやけにふつくらチチと鳴きつつじの木から花咲くつつじへ
中庭にはつつじの花が咲きはじめそをことほぐかひよどりの声
4月11日(火)
朝はまづ時計の針を直すべし少しづつ狂ふわが腕時計
抽斗には電池を奪ふ力あるか腕時計の墓場のごとく動かぬ時計
躑躅の赤き花咲くパティオなり皐月にはまだいささか早く
陽に乾く洗濯物を取り込みて妻のもの母のものわがもの畳む
4月12日(水)
東南アジアに拠点を構へ特殊詐欺を働く日本人日本人を騙す
カンボジアの十九人の詐欺犯を逮捕する彼らどこかにやましさなきか
なにゆゑに海外に渡り人を騙すおほかた日本の独居老婦人を
青き空の大山あたりに雲浮かぶけふも騙され詛ふ人あるか
4月13日(木)
手に重き『街とその不確かな壁』をひらく未知の物語を辿らむとして
どことなくぼんやりしてゐる山際を見尽くさむとするに目が暈けてくる
目を擦りぼうとする視野に眼を凝らす朦朧たるは山の傾斜か
リモコン装置の下方に録画を予約する恋愛ドラマのしゃれた映像
4月14日(金)
洗ひ籠から小皿とりだし片づける陶器がふれあひ軽く音鳴る
ていねいに茶器を洗ひて籠に伏せ満を持したる茶の時を待つ
ふれあへばかろやかな音をたててゐる小皿、大皿、どんぶりの音
4月15日(土)
鶺鴒がけふは二羽来て遊ぶなり雨に濃くなるみどりの木々を
鶺鴒の鳴く声ちちとささやけばちちと応ふるもう一羽ゐる
ひよどりに替りたるかと思へどもひよどりはひよどりで木々を移ろふ
初燕やうやく雨の日に見えて九階の窓をよこぎる一羽
4月16日(日)
考えねばただ莫迦になる小林秀雄、丸山眞男に見習ふべしや
「涙には匂いがある」との記述あり女性を愛するゆゑの語なりや
媛神をまつる鎮守の杜の空たかだか聳ゆ欅の古木
4月17日(月)
午前三時五十四分目覚むればくらくらとして携帯電話見えず
しばらくは天井揺れて収まらず目つむりてなほ視界揺れてゐる
食欲湧かねば朝のパン喰はず昼食に雑炊つくりやうやく食す
こんなにも居眠りたるも久しぶりこんなにも寝られる体力われにもあるか
4月18日(火)
けさもまた結露が窓の六分ほど覆へばあわてて結露吸ひ上ぐ
てのひらに泡洗剤を盛り上げて脂に汚れた手指を洗ふ
泡クリームを食べたくなるがこの不味きもの知れば二度と口にはすまじ
パティオにはひよどりいつもの鳴き声にこぶしまわしてわれに聞かせる
4月19日(水)
靄かかる中庭はかすみさみどりの木々とつつじの朱の色暈けたり
山脈は薄き靄のうち凝らさねば見えぬ大山山頂の態
ひよどりの遊ぶを見ればたのしもよ良寛さんのごとくにをりき
体調の奮はねばなんともやるせなき老いたるわれのせんすべあらず
4月20日(木)
朝食に珈琲一杯とトマトジュースたつぷり飲んではじまる朝は
井出トマトのビニールハウスが映りくるトマトあまたのつぶつぶ赤き
一杯に満たざるトマトジュース飲む日々の倣ひにどこかうれしく
米軍艦、大きなイージス艦も係留し横須賀港の平日の午後
4月21日(金)
注連縄に吊るす石上布留の鈴しづかに鳴らすいにしへの音
榊の枝にまみどり色の葉をつけて二対の花瓶白々として
米、水、塩 神に捧げて少しばかり祈りのことばをつぶやきてみる
4月22日(土)
土曜日のあまちゃんを観てこころ痛快なり来週からは海女に戻る
祭りの夜の山車の派手さを呼びかける宮古の町を練りて山車ゆく
海胆を採るあまちゃん海へ潜りゆくふかく岩場を拾ひ上げたり
4月23日(日)
ティ―パック湯にうかばせて茶を出さむ東洋の粋の黄金の茶を
八十度ばかりの白湯にティーパック沈めてふりふりすれば茶になる
煎茶のむちびちびと飲むおうごんの液体滋養のために飲み干す
4月24日(月)
少しづつ増えてゐるかもコロナ禍に死にする人の三桁なりき
伝染病五類になれば金銭的負担は患者各自のものか
コロナ禍が決定的になくならねばいつもでもコロナに死するものあり
4月25日(火)
茶碗の絵を描きてたのしきけふの時間「楽」の茶碗を黒ぐろえがく
おもふやうなかたちにならぬ茶を愛す茶を練りあげて濃い茶を喫す
渋き茶を飲むときその茶の緑濃き粉こね挙げて濁み茶のごとし
4月26日(水)
ペットボトル二本大きく広げ打つ太鼓のやうに音を鳴らして
バイオリンに合わせて鳴らすペットボトル素人が鳴らす太鼓の音を
カスタネットとペットボトルを鳴らしたり打楽器なればおもしろき音
「大黄河」に一度だけ会いし島田裕巳氏わが世代には冷静なる学者
新宗教、政治に深く入り込む創価学会も戦後の新宗教も
4月27日(木)
二八〇ml小さなペットボトル・ティー伊右衛門を飲む緑茶を喫す
伊右衛門のレッテル貼るを飲みにけり緑茶のふかきみどりを飲み干す
鳶五羽が翔ぶときそれぞれ影をもつ大き影、小さき影、中つ影がゆく