橋をわたりとなりの町へ鴨遊ぶ川のながれを覘き込みつつ
清響乾坤を包む一瞬をおもひみむとし想ひみがたき
<主人メモ> 綱淵謙錠『史談往く人来る人』を読みはじめるとすぐに 五十余年の夢 覚(さ)め来(きた)って一元に帰す 截箭(せつせん)弦(つる)を離るる時 清響(せいきよう)乾坤(けんこん)を包む という素敵な五言絶句に出会った。 江戸時代前期、越後高田藩のお家騒動の際、 将軍綱吉の裁断で切腹を命ぜられた小栗美作の辞世である。 綱淵は、この綱吉の断を「自分の将軍襲位に反対した越後光長と大老酒井忠清に 復讐するための政治裁判だと見ている」と複雑な政治劇を読み取り、 小栗美作の人物に賛辞を贈る。 切腹も「見事である。」「辞世もいい。」「生死の転瞬を矢の弦を離れる響きに託して」と語る。 たしかに清新すがすがしい気を感ずる作である。