今日も暑くなっている。あけぼの杉の根元には今日も蟬穴はない。しかし油蟬が鳴き、今朝は熊蟬も聞こえる。
青山文平『やっと訪れた春に』読了。青山文平らしい泣かせる小説だ。意表をつくような書き出し。主人公が城の濠に落ちる。そこから二人の藩主を擁する橋倉藩をめぐる明暗が展開する。藩の平穏のその底に潜む哀切な深い闇。いやあ泣ける小説だ。
死ぬものと死にゆくものとを見尽くして老いを生きねばならぬもののふ
油蝉の鳴くこゑを聴く翌日に熊蟬のこゑともどもに聞く
マンションの南の青き空にひびき熊蟬のこゑやがて消えたり