薄曇りがつづき、じめじめとしいている。雨はふらないが、梅雨なんだな。
森鷗外『大塩平八郎』(岩波文庫新版)読了。「護持院原の仇討」、表題作、「堺事件」、「安井夫人」の四編の歴史小説が収められている。いずれも既読のものだが、あらためて、その明朗な文体に感心。「平八郎の思想は未だ醒覚せざる社会主義である。」「平八郎は哲学者である。しかしその良知の哲学からは、頼もしい社会政策も生れず、恐ろしい社会主義も出なかったのである。」(「大塩平八郎」附録)
また、「堺事件」からは、切腹の一番手になった箕浦猪之吉の辞世の詩を記憶しておきたい。「妖氛を除却して国恩に答ふるに/決然 豈に人言を省みる可けんや。/唯だ大義をして千載に伝へしめば/一死 元来 論ずるに足らず。」最後の武士の潔さであろう。
大塩平八郎の乱の粗さゆゑか覚醒せぬ社会主義と森鷗外説く
文体の平明をこそ鷗外の歴史小説ここち良きなり
「一死、元来 論ずるに足らず」箕浦猪之吉辞世の詩なり