朝から20度を超えて暑い。午前中本厚木へ。珈琲を飲んで帰ってきた。中庭の一本の夏つばきに花がひとつ咲いている。
キッチンの朝の床に落ちてゐる菠薐草の根の乳首色
沙羅の木に沙羅の花咲くしろき花五弁の花びら透けたるごとく
松浦寿輝『夢月の譜』をようやく読み終えた。今月は本を四冊しか読んでいない。ふつうの月なら最低十冊は読むのだが、『暗夜行路』、『斑鳩の白い道のうえに』、いづれも再読にもかかわらずハードな、そして時間もかかった。あとは岡野弘彦『伊勢の国魂を求めて旅した人々』、これは書評を求められての読書。しかし、どの本も充実した読後感を与えてくれた。
『夢月の譜』は、戦死した大叔父が創った将棋の駒を追う物語であり、日本国内のみでなくシンガポール、マレーシア、アメリカと彷徨する松浦らしい物語性があり、最後は明るく展開して終わる。なかなか楽しい時間であった。満足である。
「ふつうの町でふつうに生きて死んでゆく――ひょっとしたらそれが、一人の人間が手に入れることのできる最高の幸せ、あるいは贅沢なのかもしれない」
大叔父の残せる「夢月」を追ふ旅のその道行きをわれは愉しむ