井上荒野『あちらにいる鬼』を読んだ。父、井上光晴とその妻、そして井上の愛人であった瀬戸内寂聴との三人の関係を井上の娘、荒野がえがいた小説だが、凄い。それぞれ白木篤郎、笙子、長内みはるとして描かれ、その不思議な関係が、娘によって、すぐれて濃密にえがかれ、読むものを圧倒する。わたくし不覚にも、笙子の死の場面では、目のふちにじわっと涙を滲ませた。この不自然な愛の形をあらわす小説を何と呼べばいいのだろう。ただただ凄い。
濃密なる小説世界を脱けだせずもんもんと朝のふとんにもぐる
今日は、すこし暖かく感じられる。虫たちは敏感だ。
空中を小さな蟲が浮遊する老いに枯れたるわれをもめぐる