奈良旅二日目。長谷寺へ。駅からこんなに階段を下らなければならなかったか。記憶が失せていた。そして帰りにはその階段を上ることになる。しかも寒い。しかし本堂では勤行がはじまり、なかなか感動的な時間との出会いがありました。長谷観音の大きさ、やさしい表情に包まれるようでもありました。
長谷寺へ駅からこんなに階段をくだりしかとんと記憶失ふ
さういへばさうだつたかとかはらざる與喜山暖林にむかへば憶ふ
勤行の太鼓の音のひびきあり本堂へむかふ長谷寺回廊
いくたりの平安をとめもひざまずくその黄金の頬笑みのまへ
長谷寺の観音像につかへたる雨宝童子の赤きくちびる
ぼたん花は藁につつまれひつそりと白き花咲かす初瀬の峡に
参道のいつもの店に草餅をほほばりて笑ふ媼と翁
駅までの階段をはあはあ息をつぎながら辿りかえし、桜井へ。安倍文殊院、そして桜井市図書館、等彌神社へ。安倍文珠院の変貌には驚いた。それ以上は言うまい。そして今、わたしの腕にはドーマンセーマンの念珠がある。もちろんプラスチック製のまがい物だが。
安倍文珠院西古墳
古墳の石室内部に灯をともし往にし世もさう遠くはあらず
等彌神社
鳥見山に靈畤を立てたりし磐余彦尊ここに祈れり
夕刻、この旅のもう一つの目的である旧友に会う。奈良国立博物館の館長である。高校時代以来の数少ない友人。奈良の酒に酔うて談論風発、快なり。
わが朋に会はむときたる奈良の夜ならの酒飲むこの酒やよし
快なり、快なり。
年明くる奈良の町にはどことなくほっと息するやさしさがある