重い雲が空を覆っている。朝は涼しかったが、やがて湿度が高くなる。
山本兼一『狂い咲き正宗』を読む。山本は二〇一四年に享年五十七で亡くなっている。
刀剣商ちょうじ屋光三郎の、御腰物奉行・黒沢勝義の嫡男だが、勘当され町のちょうじ屋の婿になった。その光三郎が主人公の刀剣物語だ。楽しい読書である
刀剣を扱ふ商売わが夢のひとつとおもふ小説読みつつ
水出し珈琲のこの芳香を嗅ぎやればここはコーヒー国熱帯の里
時をかけて水出しコーヒーを抽出する香りよきかな黒ろぐろとして
『論語』子罕二六 孔子の言。「大軍でも、その総大将を奪い取ることはできるが、一人の男でも、その志を奪い取ることはできない。」
三軍の帥は奪取出できても匹夫の志奪ふべからず
『正徹物語』192 一首懐紙は、「詠」の字の下に題を書く。「詠松有春色和歌」は、次のように書く。歌を三行三字に書く。奥をひろく余したもみにくい。一ぱいに書きあわせんとしたのもわるい。「詠」という字より前の空いたくらいに、歌の後の余白を書き残してあるのがよい。歌の行間があまり広いのもよくない。かといって三首歌を書く時のような行の幅でもだめだ。ちょっと広く空けて書くのがよい。俗人は、「春日同詠―和歌」と書き、全て一行に収める。出家者はただ「詠―和歌」とだけ書く。さらに「詠」の字の下に「夏日」「秋日」「冬日」などと書くのを、端作という。
懐紙にも在家、出家で書き方に違ひあるべしやかましきかな
『百首でよむ「源氏物語」』第十八帖 松風
明石の御方と光源氏
・契りにし変はらぬことの調べにて絶えぬ心のほどは知りきや 光源氏
・変はらじと契りしことをたのみにて松の響きに音を添へしかな 明石の御方
冷泉帝から桂の邸の光源氏へ、またその返し
・月のすむ川のをちなる里なれば桂のかげはのどけかるらむ 冷泉帝
・ひさかたの光に近き名のみしてあさゆふ霜も晴れぬ山里 光源氏
ひさかたの帝来ざれば月影もうすれとどかぬさびしくあらむ