朝からいい天気である。
存在の耐へられない軽さに遊弋し街を俯瞰すプラハの街を
藤原定家の歌の本歌取り、類歌を探り巧みなり安東次男の書は
宇野浩二の狂、芥川龍之介の自死への道。広津和郎が詳しくしるす
「かりん」の下村道子さんが亡くなった。私が、歌をはじめた頃、その歌に影響された。「かりん」6月号に追悼されている。「下村道子作品抄(田村広志選)」
・ほんだわら踏めば小さき音のする幼き恋のありし浜辺に
・地図に見る二センチの距離望郷の思いにかおる菜の花畑
・ほの青き切符にのせて発たしむる遊離魂雪ふるかなた
・ねじひとつ転がして知る秋近き実験台の下のゆうやみ
・胸のごときふくらみをもつフラスコのかすか陰りて風の音する
・嶺岡の山吹きおろすからっ風わが哀しみの内側を剝ぐ
・優れたる論とは思わねど論文の数にて量られる身のために書く
・教授・助教授・助手の感情閉じこめていずれのドアも無表情なり
・食にまつわる悲しき歴史語らえば静まりて深海のごとき教室
・見えぬ色を分光光度計で測りいる思えば信じていることに似て
・筵巻きのお仙を落としし断崖に村人は悔いて地蔵遺しし
・白鷺は一本足にて川に立つ白磁のようなからだ支えて
・ひっそりと母の通夜する梅洞寺夜の気凍りて霜となる音
・悲しまざるというにあらざり穏やかな父の死に顔 ごくろうさまと
・リハビリに精出し歩き絵を描くといいにし二日後君は逝きたる
・アトリエにスーツ一着掛けおき帰ることなき人に帰せたく
・ふくろうの鳴く谷戸に住み見定めん一人になりしわれの時間を
・かたわらにありたる人は風となり大夕焼けに向かうとき来る
・かの夜にて母はその母と会いたるか春近き日の山は霞めり
・寄せてくる芒の穂波しなやかに輝きて晩年の光となりぬ
ということで『論語』以下はお休みです。