六月である。今のところ天気はいい。
よろこびはことしの梅の大き実を手にもてあそびその香嗅ぐとき
よろこびは梅の実それぞれに振り分けてあばたあるもの寄せあつめたる
よろこびは実から熟した液指に潰したるのち梅の実匂ふ
『論語』泰伯七 曾子が言う。「士はおおらかで強くなければならない。任重くして道は遠い。仁をおのれの任務とする。なんと重いことよ。死ぬまでやめず、なんと遠いことか。」
士の道の死して後やむ遠からず仁もておのれの任となすべし
『正徹物語』152 初心のうちは、「月に寄する恋」「花に寄する恋」などの寄物の題は、詠みにくく感ずる。そして「見る恋」「顕るる恋」などの題でも、何かに寄せない題は詠みやすいように感ずる。熟達して、寄物はやさしく、ただ「聞く恋」「別るる恋」などが大変である。「暮春に鐘を聞く」という題でこのように詠んだ。
・この夕入相の鐘のかすむかな音せぬかたに春や行くらん 草根集2674
このようになだらかに詠み馴れるのがよい。そうはいっても、それは極北に到達した後で、初心者の境地に戻って、こんな歌が詠める。水上の月は、手で取れそうで、撮れないようなものだ。「ここの程はさうなく得がたきことなり。」
正徹のわが歌自慢。春の暮れ入相の鐘の音遠ざかる
『伊勢物語』百二段 歌は詠まなかったが、男女の機微は心得ていた男がいた。親族に高貴な身分の女がおり、尼になった。女は、世間を疎んじて京を離れ、遠く山里に住むようになった。すると男は女へ、歌を詠んで贈った。
・そむくとて雲には乗らぬものなれど世の憂きことぞよそになるてふ
男がこの歌を送った相手は、かつての斎宮である。
時を経て尼になりけるをみなへも歌を詠みたるむかし男は
明日は湯河原の宿に一泊の予定。明日の欄は明後日書くことになる。