温帯低気圧に変わった台風一号が、南の海を遡っているようで、雨が止まない。風はそう吹いてはいない。
今日は、私の誕生日である。六十八歳、あんまりめでたくないが、まあまあか。
もらひ梅を等級に分けそれぞれに梅干し、梅ジュース、梅ジャムにする
トリアージにあらねど梅に優先順あれば傷ある梅の等級
梅の実の匂ひ部屋内に充満す最初は爽やかやがてじっとり
『論語』泰伯六 曾子が言った。「小さいみなしごの若君をあずけることもできれば、諸侯の国家の政令を任せることもでき、大事にあたってもその志を奪うことができない。これこそ君子の人であろうか、君子の人である。」
曾子が言ふ君子の人は孤を託し命を寄すべく奪ふべからず
『正徹物語』151 建保名所百首の題で、初心者は歌を詠んではならない。名所には、その場所で昔より詠み慣わしている題材があるので、新しく読む歌もおおよそは昔の歌と同じである。独創の余地はわずかである。初心の頃は名所の歌を詠みたがる。簡単に見えるからだ。私どもも歌が詠めないときは、名所を詠む。名所を詠むと二句や三句すぐに詞が埋まるので、それほど力を込めなくてよい。「高嶋や勝野の原」や「さざ浪や志賀の甘松」など詠めば、既に二句埋まる。私はもう四十年余歌を詠んでお学の稽古に詠んだものだ。しかしながら堀河百首は、ちょっと詠みにくい題である。初心者は二字題など、もっと自然で単純な、詠み慣れているものがよい。月や花といった、まっとうな題で詠むのがいい。弘長・宝治・建久・貞永といった年代の百首歌の題で詠むのがいいだろう。
名所の題で詠むこと難き初心者は名所は名所でも詠みなれたもの
『伊勢物語』百一段 左兵衛府の長官である在原行平の邸には、いい酒があるという噂をきき人々が集まった。その日は、昇殿が許されている左中弁である藤原良近が、宴の正客であった。主の行平は、風雅を好み、瓶に花を活けさせていた。花の中に、目を奪わんばかりの立派な藤の花がある。花房の長さは三尺六寸(一メートル以上)。
皆は、その藤を題に歌を詠んだ。
詠みつくした頃、業平の兄弟(おそらく業平)が、客をもてなしていると聞いてやってきた。皆は、この男に歌を詠ませた。歌の詠み方など知らぬと男は辞退した。しかし無理に男に歌を詠ませた。こんな歌だ。
・咲く花の下にかくるる人多みありしにまさる藤のかげかも
意味を訊いた。男の答え。「今の世の頂点、太政大臣は藤原氏。その藤原一門の栄華のさかりを思い、詠んだ。」皆は黙った。なぜなら宴席には、藤原氏ゆかりの者と共に、藤原氏から遠い者たちも同席していたからだ。すぐにはわからなかったため、歌の底にある複雑な陰影を、皆は心の中でかみしめたのだった。
場に応じ歌つくることは業平の得意技なり藤は藤原