朝から晴れている。朝は涼しかったが、いまは暑い。
新しき若葉が古きみどり葉に変はるときには古葉こぼるる
新しき若葉に変はる椿の木繁り閑散としてひよどりも来ず
常葉樹の椿の葉々に隠り飛びだせるひよどり今の樹には拠り来ず
『論語』述而二四 孔子は、「四つを以て教ふ。文、行、忠、信。」
孔子の教え四つばかり文、行、忠、信いづれもむつかし
『正徹物語』132 春の歌に慈円が
・吉野川花の音してながるめり霞のうちの風もとどろに
「『花の音して』といへるが大きなるなり。」また秋の歌に
・秋ふかき淡路の嶋の有明にかたぶく月を送る浦かぜ
修理大夫畠山義忠の家の会で、「夏の樹の鳥」という題でこんな風に詠んだ。
・時鳥また一声になりにけりおのが五月の杉の木がくれ
「時鳥また一声になりにけり」といっているのが、やや大ぶりと見る。たとえ千声百声といっても、微細な歌柄となることもある。
三体の歌の風には大ぶりがよしたとへば「花の音」と詠むかな
『伊勢物語』八十二段 惟高親王の離宮が山崎の先、水無瀬にあった。毎年、桜の花の盛りには離宮を訪れた。必ず右馬頭をつれていた。右馬頭の名は、さても時がたったので忘れた。しかし狩りはさほどせず、酒ばかり飲んで、歌をよく詠んだ。すぐ近くの交野は、狩りによく、桜の美しいところであった。その渚にある邸の桜はことに美しかった。親王は馬からおり、桜のもとに座った。枝を折り、冠に飾った。身分の上下なく、皆で歌を詠んだ。右馬頭は、こう詠んだ。
・世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
また違う人は、こう詠んだ。
・散ればこそいとど桜はめでたけれ憂き世になにか久しかるべき
一行は帰途についた。日は暮れようとしていた。すると供の者が、しもべに酒を持たせて野よりあらわれた。この酒を飲むによき場所を探した。天の川(枚方市禁野)にたどりついた。右馬頭は親王に酒をすすめた。親王は言った。「交野で狩りをし、天の川のほとりまで来た」という題で、歌を詠み、飲もう。右馬頭は詠んだ。
・狩り暮らし棚機つ女に宿からむ天の川原にわれは来にけり
親王は歌に感心し、くり返し朗誦したが、そのあまり返歌を作れなかった。そこで紀有常が返した。
・一年にひとたび来ます君待てば宿かす人もあらじとぞ思ふ
やがて親王一行は、水無瀬の離宮に帰り着き、夜更けまで飲み、話に興じた。主である親王は、酔って寝所に入ろうとする。十一月の月も山の端に隠れようとしていた。
右馬頭が詠んだ。
・飽かなくにまだきも月の隠るるか山の端にげて入らずもあらなむ
親王にかわり紀有常が返した。
・おしなべて峰もたひらになりななむ山の端なくは月も入らじを
山の端に隠ろふ月のいつまでも入らむと思ふな沈むが月なり