2024年4月9日(火)

激しく雨が降る。その上、いまは南風が激しい。嫌な雨風であり、満開をむかえたさくらのはなびらが散り、風に落とされ、九階のここまで花びらの切片が吹きあがる。

「からたちの花」は北原白秋の詞である。この唄もうたえる。

  からたちの花咲けば白き花ひらく咲いたよ咲いたよからたちの花

  からたちの棘は痛いよ針の棘指触れれば痛しその青い棘

  からたちの畑の垣根いつも通るこの道通る人皆やさし

今日は『論語』『正徹物語』『伊勢物語』を休んで、「まひる野」2024年4月号の特集「鑑賞 窪田空穂の歌『丘陵地』を読む」から、その鑑賞歌を記す。『丘陵地』は、昭和29年から31年に至る622首を収める第19歌集。空穂、78~80歳。

 ・酒飲めば酔ひてたのしくなる友にひとり飲ましめわれは飯食ふ

 ・東京の台地はすべて桜なり花䕃出でて花䕃に入る

 ・人類を無間地獄に墜とすべく死の灰降らす鬼のあらはる

 ・命一つ身にとどまりて天地のひろくさびしき中にし息す

 ・石に彫りてここに留むや亡き母を恋ひ悲しめる若き日の歌

   (鉦鳴らし信濃の国を行き行かばありしながらの母見るらむか)

 ・程のよき世辞いひかはしわらひあふ村附合に堪へざりき兄は

 ・制服の甲斐をとめらが歌おもふひとへごころの歌碑とあらはる

    除幕式に来よといふなり顔知らぬ甲斐をとめらを老の目に見む

    日下部の駅に笑顔を押し竝べわれ見迎ふるをとめらが群

      この二首が歌碑に刻まれ、これはその場での歌。

 ・甲斐をとめ我を祝ふと千羽鶴折りて掲げし下をばくぐる

 ・峡川の笛吹川を越えくればこの高はらはみな葡萄なり

 ・焼跡に蹲りては起ちがてにせし日は遠く十とせ過ぎぬ

 ・一つ墓碑に竝べ刻める四つの名よ愛しきその名は皆わが書きし

 ・柏の葉解きつつ食ぶる白き餅五月はたのしいささかごとも

 ・職人はみなうらやましその職に矜りもちてはおぼれ働く

 ・そのかみの面影のこる庭の石のぼる月待ち宗長の居し

 ・よき歌を見出づることのたのしさに引かれつつ選む人が詠み歌

 ・髪いたく白みけるよと翁われは姉か母かもあはれみましき

 ・数へ年もて齢いはむ老われは幼と共に多きがたのし

 ・おもむろに移るしら雲やはらかき光を帯びて春ならんとす

 ・初恋の少女かも歌といふものは思へど逢へず忘れしめずも

 ・店頭に勤しく紐を組む主人あげたる顔を曾てわが見ず

 ・やれやれと漏らす呟き人聞くなわれといたはる慰め言ぞ

 ・漁りえし人読まぬ古書のかたはらに鋭きまなこ細めてやゐむ

 ・紫式部世にあらばわれ近寄らじ賢きひとはなつかしからず

 ・生まれ更る身ならば何をせむとすと問ふ人ありき答えず我は

 ・家族らのよろこぶ見れば命長きわれは善事をなしゐるごとき

 ・先生を超ゆる齢となりにきと思ふに何ぞ悲しみ来る

 ・わが膳をあはれみ見るな一椀の飯に事足るわれにしあるを

 ・戦はぬわが子捕虜とし死なしける忌々し彼や何する者ぞ

 ・権力のおとろへゆくを憤り振ふ暴力のあさましさ見よ

 ・郷愁も老ゆるに淡し幼日の小豆まぜたる冬至の南瓜

鑑賞された歌をすべて揚げた。空穂なかなかいいですね。私は1,2,4,8,17が好きです。

偏屈房主人
もともと偏屈ではありましたが、年を取るにつれていっそう偏屈の度が増したようで、新聞をひらいては腹を立て、テレビニュースを観ては憮然とし、スマートフォンのネットニュースにあきれかえる。だからといって何をするでもなくひとりぶつぶつ言うだけなのですが、これではただの偏屈じじいではないか。このコロナ禍時代にすることはないかと考えていたところ、まあ高邁なことができるわけもない。私には短歌しかなかったことにいまさらながら気づき、日付をもった短歌を作ってはどうだろうかと思いつきました。しばらくは二週間に一度くらいのペースで公開していこうと思っています。お読みいただければ幸い。お笑いくださればまたいっそうの喜びです。 2021年きさらぎ吉日

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