そこそこ明るいのだが、曇り空であり、どこか寒さが感じられる。
若みどり色の木の下をゆく妻の若草色の春のセーター
木に隠れ若草色の妻がゆく遠くを見てをり春の山並み
葉ざくらの鬱陶しき葉のした通るこの道はむかしの街道
『論語』述而五 孔子が言う。「甚だしいかな、吾が衰へたるや。久し、吾れ復た夢に周公を見ず。」 周公、周の武王の弟。周の文化を創建した。魯の国の始祖。理想主義の孔子の憧れ。
周公を夢に見ることもなきわれの衰へたるか孔子嘆けり
『正徹物語』114 「浦の松」という題で、
・おきつ風いさごをあぐる浜の石にそなれてふるき松のこゑかな
と、詠みましたが、家隆の
・浜松の梢の風に年ふりて月にさびたる鶴の一こゑ
という歌の情景が心にうかんだ。この歌のスタイルは、巌が苔むして幾千年ともわからないほど歳月を経た、蒼古な姿を見ている気持ちがする。いわば仙境を見る気分がする。格調高く堂々とした歌のスタイルである。ただし幽玄体ではない。
幽玄の体にはあらねど家隆がうたひし鶴のひとこゑ鳴く歌
『伊勢物語』六十四段 男は、女と文をかわしていた。それだけで、ひめやかに逢って語り合うということをしたことがなかった。いったい女はどこに住んでいるのだろう。男は疑い、詠んだ。
・吹く風にわが身をなさば玉すだれひま求めつつ入るべきものを
女は、返した。
・とりとめぬ風にはありとも玉すだれ誰がゆるさばかひま求むべき
逢ふことを断られたるか昔男そんなこともあり皆がより来ず