朝から晴れて暖かい。さくらの花も、そろそろ終わる。
わが家には時計いくつかそれぞれに違ふ針の音時を刻めり
四つの時がそれぞれに刻まれて老いを悩ます時の回転
時間ごとに自我が刻まれわたくしは四つの自我を持ちたるべしや
『論語』雍也二九 孔子の言。「中庸の徳たるや、其れ至れるかな。民鮮なきこと久し。」
中庸は最上だ。だが人民のあいだに乏しくなって久しい。
中庸は最上の徳されど今は民のあひだに乏しきものを
『正徹物語』108 歌は「寛平以往の歌に心をかけよ」と定家も書いている(「近代秀歌」から、古今集よりさらに以前の歌を理想とせよということだ。このように和歌は「古風を心に染めよ」とあるからといって、後拾遺集の時代の風体は詠みぶりがとりわけ悪い。まるで「ほこりうち立てたるものども」で、中国からの舶来品といっても、「口ゆがみ、はたのかけたる古銅のをかしき様なり。」
歌といへば寛平以往に心がけよ古風をこころに染めたるがよし
『伊勢物語』五十八段 男は、色好みであり、ものごとの良し悪しもわきまえていた。
長岡(京都府長岡京市)に住んでいた。隣には宮様の皇女たちが住んでいた。仕えているのはちょといい女たち。田舎だから、男は稲刈の指図をする。女たちは「まあ、稲刈の指図なんて、数寄者だこと」と皮肉にからかいながら、家の方まで来た。男は、家の奥に逃げ、隠れた。
女たちが詠んだ。
・荒れにけりあはれ幾世の宿なれや住みけむ人のおとづれもせぬ
と言って、ますます集まって来た。
男は、
・葎生ひて荒れたる宿のうれたきはかりにも鬼のすだくなりけり
と読んだ。
この女ども「穂にひろはむ」、かりそめですって。『稲刈り』に掛けたのね。せっかくですから、男の田の落穂を拾いましょう。」それで男は詠んだ
・うちわびて落穂ひろふと聞かませば我も田面に行かましものを
女性たちの勝ということですね。
田に出でて男なにせむ女たちに見据えられてぞ顔あからむか