朝は靄がただよい、山は雪で白く幻想的な景色であった。
胎児がみる夢のごとくに壮大なる宇宙のひろがりいのちの力
夜がらすの鳴くこゑ聞こゆくらやみのいづくに鳴くやその不気味ごゑ
不穏なり。夜がらす鳴けば戦代のごとくに今日も人殺さるる
『論語』公冶長二二 孔子が陳の国で言った。「帰らんか、帰らんか。」「吾が党の小子」美しい模様を織りなしてはいるが、どのように裁断したらよいかわからないでいる。帰って私が指導しよう。なるほど。
陳の国にて孔子がいふ「帰らむか、帰らむか」帰りて党の小子を鍛ふ
『正徹物語』73 むすび題(複数の概念を結合した題)は上の二字を字音、下の二字を和訓で読むものであるが、すべて字音で読まねば通らぬ題もあり、またすべてを訓に読むものもある。「秋暮残菊」は、通例とは逆に上二字を和訓、下に字を字音で読む。
むすび題の読み方につき解説する正徹どこか偉さうにして
『伊勢物語』二十三段 筒井筒である。「ゐなかわたらひしける」人の子どもがいた。幼い頃は、井戸のまわりに遊んだ。男はこの女を妻に、女はこの男を夫にと思って、親のいうことは聞かないでいた。その隣の男から歌が届いた。
・筒井つの井筒にかけしまるがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
女の返歌
・くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずして誰かあぐべき
ついに二人は結ばれた。何年か過ぎ、女の親が亡くなった。このまま貧しいままでは困ると男は思う。そのうち河内の高安の郡に通うところができた。
しかし女は、いやな顔もせず、こころよく男を送り出す。女に「こと心」があるのかと疑い。植え込みに隠れ、女を伺った。女は身じまいを正し、化粧もしてもの思いに沈んでいた。そうして歌った。
・風吹けば沖つしら波たつた山夜半にや君がひとり越ゆらむ
女がそう詠んだのを聞いて、高安の女のもとにはいかなくなった。たまたま高安にきてみれば、なんだかひどいありさま。男が来ないので、高安の女が詠んだ。
・君があたり見つつををらむ生駒山雲な隠しそ雨は降るとも
そして、何度も「大和人」が来ると聞くたびに期待するのだが、とうとう男が来ることはなかった。
・君来むといひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬものの恋つつぞ経る
と高安の女が詠んでも、男が来ることはなかった。やっぱり昔からの女のやさしさがよかった。