朝から冷たい雨、そして北風。だから寒い。
二、三日前のことだが、部屋に蠅がいた。冬の蠅だ。
何処からか迷ひ入りたる冬の蠅頼りなげなりわれに打たるる
部屋のなかを蠅が来てゐるふらふら游ぶも頼りなげなる
ふらふら飛ぶ蠅のあとたどりゆき遂につぶせり窓の下に
『論語』公冶長一八 孔子が言った。臧文仲(魯の大夫)は、卜に使う大亀甲を締まっていたし、柱の上のますがたに山をほり、梁の上の短い柱に藻を描いて天子でなければできないことをした。それで智者とは。とてもいえない。臧文仲は、だめだということ。
魯の太守臧文仲は悪しきゆゑ如何ぞ其れ知らなんといふ
『正徹物語』70 「春ノ恋」の題で歌を詠んだ。
・夕まぐれそれかと見えし面影の霞むぞ形見有明の月 草根集4443
夕暮れの霞みわたれる頃、人をちらっと見て「これは我恋しく思ふ人、やれ」と、その面影を心にきざみ、一夜を過ごして、明け方に残月を見て、あの面影を思い出すと、霞んだ月にぼんやりとした面影が浮かんだように感じた。そこで「霞む形見」と詠んだ。この面影は、どんな表現・内容でも追い付かず、ただ幽玄である。言葉を超えたことだ。『源氏物語』の
・袖ふれし人こそなけれ花の香の面影かをる春の曙 手習巻・浮舟の歌
と好一対である。正徹の自慢話だね。
春の霞のやうなる面影に恋をする正徹どこか純情なりき
『伊勢物語』二十段 昔男、大和にある女と恋仲になる。時を経て、男は京に宮仕えするものなれば、帰らなければならなかった。三月であるのに、楓の若葉が、まるで紅葉しているように赤く美しかった。手折って女に送った。
・君がため手折れる枝は春ながらかくこそ秋のもみじしにけり
京についたあと返歌があった。
・いつの間にうつろふ色のつきぬらむ君が里には春なかるらし
また、大和にきてくれないかしら。そんな思いだね。