秋の良い日である。
発つ時に百済観音すくと立つ娘のすがたおぼろけならむ
わがね眠る傍に添ひ椅子に座す妻端然たりすぐまた意識なし
いつのまにかオムツに換へられ点滴に繋がれてまた病人ならむ
歯ブラシをコップに入れてベッドの上身動きならず含嗽してゐる
『論語』顔淵一二 孔子が言った。片言以て獄へを折むべき者は、其れ由なるか。子路(由)、諾を宿むること無し。
孔子の弟子の中でも子路は優れたり片言をもち訴へを定む
『春秋の花』山本常朝
「一生忍びて思ひ死することこそ、恋の本意なれ。」『葉隠』(1716?)
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「なんじ施しをするとき右の手の成すことを左の手に知らする勿れ。」『マタイ伝』
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岡本かの子『金魚繚乱』(1937)
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「文庫より書物を出だし給ふ。明候へば丁字の香いたし候也。」
丁字の香。強き香りを匂はせてここは往にし世いつか変ぜし