部屋に風が通って、やや涼しい。
芭蕉『笈の小文』を読む。何度か読んでいるのだが、ようやく意を汲めるようになってきたような気がする。白馬へ行っているとき『奥の細道』を読んだのだが、今まででもっとも腑に落ちたような。60代になって、ようやく古典が読めるかもしれない。「百骸九竅の中に物有。かりに名付けて風羅坊といふ」にはじまる大和紀行、愛知県の保美に謫居する杜国を訪ねる。このあたりの芭蕉の句、どこか艶めいている。「寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき」「冬の日や馬上に氷る影法師」「鷹一つ見付けてうれしいらご崎」、そして伊勢に再会する杜国。ここでは万菊丸と名乗り、笠の内への落書き「よし野にて桜見せうぞ檜の木笠」、「よし野にて我も見せうぞ檜の木笠」。前者が芭蕉、後者が万菊丸である。二人の細やかな愛情がうかがえはしませんか。
万菊丸、童子を名のる同行者よし野のさくらに三日とどまる
風羅坊は万菊丸に逢ひにけり笠の内ふたりの句を書きつけて