12月24日(木)
電線に居並ぶすずめの数かぞへおおつと動くなかぞへられない
12月25日(金)
山の端(は)の雲濃厚にピンク色こんな日はぬばたまの夜もあやしき
七面鳥も鶏手羽もなく晩餐は一汁二菜納豆もある
12月26日(土)
冬の田に枯れ藁燃やす媼ありけぶり上れば青天翳る
おだやかなる午后のおやつにチョココロネ妻はアンパンこんな日もある
12月27日(日)
古雑誌古ノート束ね紙ごみに出さむとす記憶を棄て去るやうに
棄てなくとも忘れてもどらぬ記憶ある老いとは多くを忘れゆくこと
12月28日(月)
栂の木の枝荒れて主(あるじ)なき家も春のいそぎか葉むらととのふ
12月29日(火)
水音、羽音知らせなくして訪れる枯蓮池に鴨着(ど)く数羽
むかしむかし書きて書ききれぬ原稿のいくつもありて多くを捨てつ
12月30日(水)
昨夜(ゆふべ)聴く薬師丸ひろ子のうたのこゑ探偵物語けさわれうたふ
墓の奥に山茶花二つの花咲かすまだ散らざらむ父よたのしめ
12月31日(木)大晦日
バスタブの裏にへばりつく人の膏(あぶら)執拗なりきなかなか落ちず
洗へどもあらへどもとりきれぬ汚れこそわが偏執の魂かも知れず
西方の山の鞍部にしづみゆくことし最後の太陽の色
黄金にかがやく雲の幾片か浄土を示す雲かとおもふ