2月1日(月)
きさらぎの初めの朝も西空にくらげ色した月高くあり
日没(ひい)る際(きは)のみなみへ延びる雲の底その金色(こんじき)の荘厳(しやうごん)をみよ
2月2日(火) 節分
雨後の苔にひかりありけり夜の室(へや)に端坐妄想(まうざう)するに思(も)ひ出づ
天に花咲け、地に実着け 福豆を撒く 福豆を喰ふ
2月3日(水) 立春
さ~てけふは何に変身して行くか春なれば花にうつろふ蝶か
パンジーの黄色の花から紫へさても妖しき花へと移る
2月4日(木)
天平時代の謹直なる文字『南海寄帰(なんかいきき)内法伝(ないほうでん)』断簡
座具一布肩にみとめて苾芻(びつしゆ)ひとり莞爾と笑ふ那爛陀(ナーランダ)寺に
2月5日(金)
日に四度体温・血中酸素濃度・血圧測り生き延びてゐる
天の筆が三刷毛薄き雲を描く春を誘(いざな)ふ空の色なり
冬の木の石榴の枝に目白くる鳴き連れて二羽木々渡りくる
2月6日(土)
脂質異常と言はれても困るトマトやワカメ、昆布は好きだが
実朝の日課観音をおもふなり心弱りか祈りたくなる
昼食は昨夜の牡蠣鍋の残り汁雑炊にして卵を落とす
2月7日(日)
蓮實重彦の暴言のごときが楽しくて新書一冊たちまちに読む
ちょっと「濃い」コーヒー飲めば妻と観し古き映画の接吻場面想起ふ
2月8日(月)
一町ほど先の踏切警報の高く鳴りだせば歩を緩めゆく
踏切を電車すぎゆく暫しの間ふところ手して寒天に堪ふ
2月9日(火)
橋をわたりとなりの町へ鴨遊ぶ川のながれを覘き込みつつ
清響乾坤を包む一瞬をおもひみむとし想ひみがたき
2月10日(水)
冬川の水底浅きほとりには紅梅白梅花にひかりあり
垣のうちに夏みかんあまた実らせる庭を覗けば猫の目に会ふ
2月11日(木)
エリック・サティ『ジムノペティ』をながしつつ『喪神』を読む至福の時間
2月12日(金)
ボンカレーのボンとは何かと問ひたれど誰も答へ得ず肉だと決めつ
小学生のオレでもこれならできさうだ鍋に三分はけつこう長い
駅前のさくらの枝に早き花枝には枝のゆゑよしあらむ
2月13日(土)
五千歩をあるいてくればここは何処しだれ梅紅き花着けてをり
先生の歌集をさがす本の山、本棚の奥にやうやく揃ふ
2月14日(日)
チョコレート齧ることなくけふ暮れむ恋することも少なくなるか
けさの空は雲の深くに青き空春なればあかるきものがながれる
2月15日(月)
どしやぶりの雨ふりやまず脳外科への道に傘させどぐしよ濡れなりき
ドアは開け放たれてさねさし相模の雨のけふ寒き雨
窓の外をしたたる雨のやまざればわが体中の不安とどこほる
2月16日(火)
昨夜の雨のなごりの土手の水たまり長靴履いて蹴飛ばしてゆく
2月17日(水)
水曜日はトイレ掃除がオレの役洋式便器の陶器かがやく
2月18日(木)
アチャ、アンマーユンヌフトゥバに親呼べばすこし愉しき笑ひもあるか
2月19日(金)
鴨どちよ悔しくないか河川敷工事に終日泥流れくる
2月20日(土)多喜二忌
多喜二忌は風つよくあれ温泉に猪鍋たのしむ時こそありしか
2月21日(日)
戦国の世なれば切迫してゐるか天橋立図たのしきろかも
2月22日(月)
新しき眼鏡にかえてたのしきは近視度すこし緩みはじめつ
2月23日(火)
掛け寝なく海老名のあかるきこの陽光これだけで十分だこれだけでよし
千三百年前にも七重塔が立つ布目瓦をわれも拾ひし
2月24日(水)
中庭の白梅の木のあかるくていまさかりなり三本そろふ
2月25日(木)
少しづつ寒さ緩むかもくれんの花咲くときのいましばし待て
2月26日(金)
天皇を怒りて死する磯部浅一八十五年怨霊のままか
2月27日(土)
病院に診断書を請求に歩きゆく散歩のついでとおもへど面倒なり
2月28日(日)
車の中に迷い込みたるてんとう虫黒き七星空中を飛ぶ