12月1日(水)
昨夜から雨、風ひどかったものの、午前7時前に雨は止んだ。
水たまりに朝の日差せばきらりきらりそのひかり踏み歩みだしたり
街路樹の残りの葉々に雨しづく残ればひかる師走朔日
山茶花の花咲き盛り道の辺は赤き花びら白き花びら
12月2日(木)
寒川の町を注連縄ぶら提げて師走二日の空の下ゆく
すずめごゑこもり鳴くなり参道の木がくれにして姿探れず
相模線新型車両とすれ違ふ軽やかにして踊るが如し
12月3日(金)
来年の暦の話を妻とするどこかで鬼が笑つてゐるか
わが家のメルケル首相が出勤すブルーのコートのメルケルさんが
12月4日(土)
大山の肩のあたりに富士が見ゆアイスクリームのやうなる白さ
あけぼの杉の枝、葉ちらばる朝の庭はうきに落葉寄せられてゆく
12月5日(日)
晩秋の今朝もひよどり二羽が来るカーテンひらき覗く中庭に
山茶花の白き花びらこぼれ落つ。垣を境に冬の領域
12月6日(月)
明け方のどんみりとした曇り空ひむがしわづかにくれなゐ滲む
くれなゐの滲みも空から消えてゆくさねさし曇天冬模様なり
12月7日(火)
あけぼの杉の茶褐色の葉のゆれてゐる師走七日の雲ある空に
みちのくの岩手の産の蜂蜜を冬眠前の老いが喜ぶ
12月8日(水)
あけぼの杉の残り少なき葉にも降る冷たき雨の容赦なくして
老いにもある性の欲動をもてあます六十五歳安寧ならず
12月9日(木)
珈琲の豆挽く音と馥郁たる香りただよふ朝のキッチン
豆を挽く電動音の響きくる朝のキッチン妻の鼻歌
12月10日(金)
信濃町の飲み屋にふたり処を得さかづきかはす夜の更くるまで
外苑のいてふ落葉の朝の日にかがやく時を息子とともにゆく
12月11日(土)
大東塾十四士自刃の碑のめぐり幼な児遊ぶ枯れ葉を拾ひ
黒く熟するくすの木の実のいくつぶか指につぶせり心昂ぶり
おもひてもおもひみがたきことの一つ敗戦の八月十四士の死
12月12日(日)
菠薐草の根の乳首色宿酔の寝ざめにまづ見ゆ唾のみこむ
首都高の下をとぼとぼ旅かばんころがして往く老いぼれわれが
舌少しもつれて語る師のすがた百歳に近き伊勢のますらを
百年の翁のみあとしたひ来し四十五年ながき年経る
12月13日(月)
みちのくの南部岩手も雪と告げ気象予報士頭をさげる
南部盛岡わが友二人が住み暮らすけふは朝から雪ふるらしき
12月14日(火)
雲中におかくれになり天照大神けさはすがた示さず
にんにくに挽肉、みかん、そして豆腐こよひのうたげの材となすべし
12月15日(水)
朝の日はまづわが部屋の壁を照らす窓を透りてあたたかき色
一晩をわが体熱にあたたまるふとん出でがたし老いたるものは
すれ違ふときにかすかに起こる風ふとふりかへるその後ろ背を
12月16日(木)
悪友と酒をすごして三日目の大量の雲古臭い、くさい
小春日は窓少し開け会すすむてにをは微妙なり歌の表現
月よみは十三夜ほどか夜の空にただあかるくて歩み停めたり
12月17日(金)
雨の朝スーツケースをひきずつて妻よこよひはふるさと長野
雨だれはわが方丈の屋根をうつ
ハガキ歌仙に今日は初折の裏三句鴨長明の登場である
12月18日(土)
妻からは長野の雪を伝へくる寒々しきはここのみにあらず
覚めて後ふとんをかぶりしばしをる時間よ止まれゆつくりとゆけ
時を置きてさわだちきたる老いの性やがて鎮まるも厄介なりき
12月19日(日)
ピンク色の朝焼け空にのぼりくるお天道さまに手を合はせたり
オスプレイ二機が連なり飛ぶところ厚木基地あたり青き空なり
月よみもひむがしの空にのぼりくるまんまるにしてあかるき色に
冬枯れのメタセコイアの背後より月よみ壮士満面の笑み
12月20日(月)
メタセコイアの冬木の枝の合間には残りの月のひかりありけり
タートルネックの首だすところを誤りてここは腕なりあわてふためく
12月21日(火)
西空にけさも浮かべる月よみの男ぶりよしあかるく笑ふ
十六夜の残りの月のなまめけば昨夜のをみなさぞ麗しき
青空へ飛び立つやうに階段をかけのぼる力われから去りき
12月22日(水)
沙羅の木のことしは多く花つけずかくすればか樹皮の紋うつくしき
くすのきの実を喰ふ鳥の落とす糞赤むらさきの色混ざりをり
冬至の夜ゆずをうかべて湯にしづむ柚の香ほのか死者呼ぶかをり
12月23日(木)
JR相模線新型車輛が通過する線路の横の穂すすき揺らし
単線のカーブするところ両旁に金の穂すすきしばし揺れたり
12月24日(金)
半月に少し欠けたる残りの月。そのすぐ横に蛇雲昇る
一年前はすずめの数に驚いて一首おそまつながらはじまる
12月25日(土)
シーソーにひとり遊べるホームレス愉しくはあらぬかクリスマス・イブ
しばしの放心の時。よみがへる雪舟等楊『天橋立図』
12月26日(日)
新聞に与謝蕪村の夜色の図。窓にこぼるる灯火に色あり
江戸の世の隅田川西岸の中洲なり司馬江漢描くはかなき灯り
12月27日(月)
帰宅して心ゆるむかよくしやべりよく食べて、笑ふ師走のむすめ
公園の日かげに小さな水たまり踏んでも壊れぬ初氷なり
12月28日(火)
エレヴェーターに異音ありけり咎めるか吊し上げか嫌味な音なり
一階から九階までを責められて白状するほかなきかわが罪
山茶花の花を咲かせる木のもとに紅きはなびら白きはなびら
その辻をまがれば小さき沼がある山茶花白きはな咲くところ
12月29日(水)
怠惰なる日々に老いゆくわれならむきのふは二冊の本読み終はる
冬山の不二ヶ嶺遠くみはるかすさがみの野にも日の温みあり
12月30日(木)
ベランダにシャツ干す妻の影動く猫のやうなり寝間の障子に
本の山をいくつか崩し見出でたる『松平修文歌集』ああここにあつたか
伊東静雄『春のいそぎ』も本の山崩せば出づる自序をまづ読む
12月31日(金)
父祖の地をもたざるわれもしみじみとゆく年惜しむ眼鏡をはづし
目をこすりこの一年を思ふなり大歳の夜の酒ほんのすこし