夕べから風が強い。(いなとり荘)
切立といふまでもないが巌の径嶮しく上がれば櫐々と墓
巌を縫って蟠る根に寄りきたる先祖代々の墓にお京を拝む
お京の墓と相向ひやや斜め下、左に草土手初路の墓あり
『孟子』離婁章句上68-2 詩に云ふ、『商の孫子、其の麗億のみならず、上帝既に命じて、侯れ周に服せしむ。侯れ周に服せしむ、天命は常靡し。殷士膚敏なるも、京に祼将す』と。孔子曰く、『仁には衆を為す可からず』と。夫れ国君仁を好めば天下に敵無し。今や天下に敵無からんを欲して、而も仁を以てせず。是れ猶ほ熱を執りて而も以て濯せざるがごとし。詩に云ふ、『誰か能く熱を執るに、逝に以て濯せざらん』と。
諸侯は天下に敵する者をの無いことを願ひしかも仁政を行はず
これではだめだ。
川本千栄『土屋文明の百首』
馬と驢と騾との別ちを聞き知りて驢来り騾来り馬来り騾と驢と来る 『韮靑集』
<馬と驢馬と騾馬の違いを聞き知ると、驢馬が来て、騾馬が来て、馬が来て、騾馬とがやって来る。>
荷を積んだ動物たちが朝市へやって来る。どれも同じように見えていたが、違いが分かると、これはロバだ、あれはラバだと区別がつき、おもしろくなって、見たものを次々に歌に入れている。上句は定型。下句は四句十二音、五句は定型の七音。四句は大胆な破調だが、「ロキタリ・ラキタリ・マキタリ」とほぼ同じ音を三回繰り返す。動物を一語一音で言うことや、「と」の繰り返しでそれを繋ぐなど、音の効果が細かく考えられている。
さし来る海の潮を見るごとし草に切り入る民族の力 『韮靑集』
<さして来る海の潮を見るかのようだ、草原を切って入る民族の力は。>
海の潮が地表を覆うかのように、草を切って開拓し、耕し、畑にしている。彼らは土にしっかりと根付いて離れず、多くの作物を作っていく。そこに膨大な人口と、民族の測り知れない力が見られる。この歌が作られた時、文明を含む日本人一行は列車で旅していた。畑には、淡い青の亜麻の花、白い莜の花が咲き、栗や小麦の穂が実る。青い空の下、目の届く限り草原と畑が続く広大な風景だ。